あの夏のヨーコさん

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OLをしていた頃、ヨーコさんという先輩がいました。

蒼井優永作博美を足して2で割ったような、童顔で小動物のような可愛らしい顔。
腰までまっすぐ伸びた黒髪をいつもサラサラ揺らしていました。

その可愛らしい見た目とはうらはらに、いつもちょっぴりダルそうで、女の”業”みたいなものを多めに背負っている雰囲気。
太陽か月かで例えたら、だんぜん月!といった感じで、妖艶な色気をはらんでいるような方でした。

 

二児の母として家で使い果たしているはずのヨーコさんの母性は、ときどき会社でも溢れ出していたように思います。

 

「よくがんばってるねぇ」と遠い席から労いにきてくれたり、持参したお弁当が小さいと「もっとちゃんと食べないと…」と母のように諭してくれる。

 

大人になると人に褒められたり心配されたりする機会がぐんと減るので、ムズムズうれしかった記憶があります。

 

その壮大な母性は、後輩の私だけでなく、部長でさえもたしなめてしまうようで、「そこ違いますよ」と注意されながらも、少年みたいにテヘッ笑う部長の横顔をみたこともあって。

 

さらにヨーコさんは、女子特有の「群れる」ことをしないので、それがまた後輩にとっては光って見えました。


さて、ある夏の朝、制服に着替えるため女子更衣室に入ると、ヨーコさんがすでに到着してました。
ネイビーのマキシワンピースをサラリとまとって、うだるような暑さに参っているヨーコさん。

「汗が引かなくて、なかなか着替えられないよ〜」
といいながら、けだるそうにハンカチで汗をぬぐっている姿があまりにも艶めかしく、私は思春期の少年のようにフリーズしてしまったのを覚えています。

「ヨーコさん、朝から色気がダダ洩れてますよ」
思わずいった私に

「まったく~」
と苦笑いして、自分の美しさにはちっとも興味がないようでした。

あの会社を辞めてから数年。そういえばヨーコさんの連絡先も知らず、SNSでも繋がっていないので、いまや遠い記憶の中のひとだけれど、暑い夏がやってくるたびに、ふと思い出します。色っぽくて、けだるくて、やさしい女。


今年の猛暑も、さぞかしヨーコさんを美しく彩っているに違いない。